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SS「――どういう私とユウくんに雪は降るの――?」

 ――きっと、まだ間に合うって思ってた。

 夏が過ぎて、秋も終わって、冬が来て。

 それでもユウくんはいつもどおりのユウくんで。
 私も、まだまだそばにいられるんだって思ってた。

 だから、ユウくんに内緒で毛糸を買ってきて、内緒でマフラーを編んだ。

 毎日。同じ毎日が流れて、今までと同じようにユウくんと学園に通って。

 そんな、今までと変わらない時間が流れてたから、私にもまだまだチャンスがあるって思ってた。


 でも――。



 

クリスマスイブ。

 私は手編みのマフラーを包んだ紙袋――包みには「ユウくんへ」のメッセージカードつき――をカバンの奥に隠して、ユウくんちのベルを押した。

 マフラーを渡して、もう一度、告白するんだもん!

  ――ピンポーン

「……あれ、いないのかなユウくん」

 
 
 もう一度、ベルを押す。
 すると、ようやくドアが開いた。

「あれ、音羽ちゃん?」

 出てきたのは、ユウくんのお父さんだった。

「こ、こんにちは、ユウくんいますか?」

「おや? 音羽ちゃんと一緒じゃないのかい? 裕也だったらさっきどこかに出かけていったよ?」

「あ……わかりました、それじゃあ行き違いになっちゃったのかな、あはは」

「ごめんね。もしアレだったら携帯に連絡してみる?」

「あ、いいです、私やります! それじゃあ!」

 挨拶もそこそこに、私は逃げるようにユウくんちを後にした。



「……ユウくん、出かけちゃったのかぁ」

 クリスマスイブなんかに出かけるなんて、熱でもあるのかな?
 こんなに町が賑わってるときだもん、商店街なんて絶対に混雑してるよ。

「ゲーセンかなぁ」

 手に持ったカバンを大きく振りながら、私は商店街のほうへといくことにした。



 商店街は予想通り人で一杯だった。
 少し前からクリスマス用のイルミネーションで飾り付けられてて、とてもきれい。
 せっかくなら、ユウくんと見たかったなぁ。

「けど、ユウくんてばどこに行ったのかな?」

 ぶらぶらと商店街を歩く。すると、

「おーい! 音羽ちゃーん!」

 あれ、あそこで手振ってるの幸二くんだぁ。
 私も手を振り返す。

「幸二くーん」

「いよっ、音羽ちゃん! どうしたの、買い物?」

「ううん、まあそんなところ、かな」

「……ん? 裕也の姿が見当たらないけど?」

「別にいつもセットってわけじゃないよ」

「確かに」

「てことは、幸二くんもユウくん知らないの?」

「俺は……このクリスマスイブに、真の愛を探すランデブーをだな」

「えー。もしかしてナンパ?」

「違う! 断じて違うぞ! ちょっと違う。 たぶん」

「へー、幸二くんてばそういうことするんだー」

「あ、いや、その、やだなあアハハ、ジョークジョーク。本当はフツーにゲーセン行ってただけ」

「あや。ゲーセンにもユウくんいなかったんだ」

 ……むう、予想が外れたかぁ。

「俺もね、どうせ裕也のやつ、暇だろうからーっておもったんだけどな。いなかったわ、ハハハ」

「そっかぁ。それじゃあ私、もう行くね~」

「そんなっ! 行ってしまうのですか!」

「うん。ばいばーい」

「ぅぅ……ばいばーぃ(;-;)ノシ」

 ここにいないとなると……どこに行ったのかなぁ?



 学園のほうにも行ってみたけど、結局ユウくんは見つからなかった。
 うーん、しかたないなあ、もう一度ユウくんち行っていなかったら帰ろう。



「あれ、音羽?」

「おや、ユウくん」

 ユウくんちに行く途中、バッタリと出会った。
 こんなもんだよね。探してるときには見つからないのに、あきらめかけると見つかる。

「どうしたんだよ、こんな時間に」

「ユウくんこそどうしたのさ」

「俺は――」

「?」

 珍しく言いよどむユウくん。
 ふむ。

「御崎先輩と一緒だったんでしょ」

「何故わかるッ!?」

 ……あてずっぽうだったんだけどな、あたっちゃった。

 最近、怪しいと思ってたんだけど。
 もしかして……付き合ってるのかな。
 きっと、そうだ。

 だって、先輩、ユウくんのこと――。

 よく見れば、首には新品のマフラー。

 あれ、先輩の手編みかな、きっと手編みだ。

「ふふん。ユウくんのことはなんでもお見通しなのだよ」

  ――ずきん。
  
 うん、大丈夫、ちょっと胸がいたんだけど、大丈夫。

「……相変わらずの超能力だな」

「えへへ、そんなに褒めないでよ」

 否定してほしかったな。「違うよ、先輩とは一緒じゃないよ」って。

「音羽はどうしたんだ? 買い物か?」

「まあ、そんなところかな」

  ――ずきん、ずきん。

 駄目だ、胸が痛い。

「どんなところだよ」

「――愛をね」

 泣きそう。でも泣いちゃ、駄目だよ。

「あ?」

「真の愛を、探す旅に出ていたのだよ」

 
 笑え、笑うんだ、舘花音羽。

「はぁ」

「あっはっは、ユウくんには一生わからないさっ!」

 きっとわからないよ、私のこの気持ちは。
 わからないよ……。

「おい、音羽」

「あっはっは」

「音羽」

「はっは………」

「お前……」

「ひっく……ぐすっ……」

「!?」

「それじゃあ! メリークリスマス!! ぐっばいユウくん!!」

「あ、おい!?」


 ――私は、その場から逃げ出した。


 もう、目が涙でいっぱいだった。


 こんな顔、ユウくんに見られたくなかったから――。





 夕暮れの公園でひとりブランコをこぐ。
 うう、切ないよう……。 

 このマフラーどうしよう。

 せっかく編んだのにな。

 もう、遅かったのかな。

 きっとそうだ。

 私はもう、ユウくんの隣には立てない。

 だって、ユウくんの隣には――、

「――ユウくんのばか」

「馬鹿で悪かったな」

「ふぇっ!?」

 隣のブランコに、ユウくんがいた。

「よくわかんねえこと言って急に走り出すからびっくりしたじゃねえか」

「知らない」

「はあ?」

「しらないもん。もうユウくんの隣にいられないんだもん」

「何言ってるんだよ」

「ユウくんのばーか! 先輩と幸せになっちゃえ!!」

「はああ!? ちょ、音羽、お前何言って――」

「2度も言わせんな! ぐっばいユウくん!」

「あっ、ちょ!?」

 ブランコから飛び降りると、私は再び駆け出していた。



 闇雲に走って、とにかく走って。
 気がつけば、だいぶ遠くまで走ってきていた。

「……ぐすっ……ユウくんのばか」

「ふむ。確かに彼は馬鹿だな」

「ふわぁ!? せ、先輩!?」

 びっくりしたぁ!
 急に声がしたかと思ったら、すぐ後ろに先輩が立ってたよ!?

「やあ、誰かと思えばキミじゃないか。どうしたんだい、女の子がこんな時間にひとりで」

「せ、先輩こそどうしたんですか? ユウくんと一緒じゃないんですか?」

 腕を組んでうんうんとうなずく先輩。

「ふむ。そうしたかったのは山々だったんだがなぁ」

「つ、付き合ってるふたりでしょ? クリスマスまで一緒にいればいいのにっ!」

「付き合ってる? 誰と誰が?」

「先輩と、ユウくん」

「あっはっは! こいつは傑作だ!」

「ふえぇ、ふえぇ?」

「ボクはね、フラレてしまったよ」

「えっ、えっ?」

「勝負をかけてみたんだけどなぁ……駄目だった。彼にはもうしっかりと心に決めた人がいたよ」

「え……?」

「まあ、そういうわけだ。……ボクももう卒業が近いしね、残念だが、彼のことは任せたよ?」

「ふわっ!?」

「あっはっは! 末永く幸せになるんだぜ!?」

「えと、あの、先輩、ちょっと?」

 ……行っちゃった。
 どういうことなの?
 先輩とユウくん、付き合ってるんじゃないの?
 だって、新しいマフラー、手編み、えええ?

「……相変わらず逃げ足だけは速ええなオイ」

「びくっ」

「ったく、何を誤解してるのか知らないが、お前、誤解してるぞ?」

「ううう、そんなこと、ないもん」

「このマフラーだって、俺が自分で買っただけだぞ?」

「う、うそだもん」

「それに、先輩とだって付き合っちゃいない。」

「し、しらないよそんなこと」

「今日出かけてたのだって――」


 ……えと、えと、もしかして、ぜんぶ、私の、はやとちり?


「あーちくしょう、わあったよ、はっきり言ってやるよ」


 私、まだユウくんの隣にいるチャンス、残ってる?


「いいか、一回しか言わないからな? 聞こえなかったとか無しだからな?」


 ――うん、勇気を出すんだ舘花音羽! がんばって、この手編みのマフラーを――


「って、あれ?」

 私の両手は、からっぽ。

 もってたはずのカバンが無い。

「あれええええ!?」

 なくしちゃった?
 がんばって編んだのに?

 ユウくんのために編んだのに!

 急に体から力が抜ける。
 ガックリ、とひざをつく。
 同時に涙腺が緩んで――、

「ふえ……ふえええええん」

 もう涙が止まらなかった。

「だから俺が好きなのは音――って、おい、音羽!?」

「うええええええん! なくしちゃったよぅ……」

「はあああっ?」

「もうユウくんの隣にいられないいいいいい! うわあああああん!」

「……ああ、ったく、ちくしょう。おい、音羽」

「ふうううっ!?」

 なんかユウくん怒ってる!?

「あのな、もう一回言ったから2度目は言わないぞ」

「ふぇ。何を?」

「だから言わないって言ってるだろ。とりあえず、だ、ホレ」

 ユウくんが渡してきたのは、私のカバン。

「あ! 私の!」

「さっき公園で置いてったろう」

 あわててカバンを開ける。
 けど――中にあるはずのマフラーの入った包みは無かった。

「寒くなってきたし、帰るぞ」

「無い、ないよ!」

「うるせーなー、ほれ、寒いだろ? これでもつけろよ」

 ふわっ、と首にかけられたのはマフラー。
 よく見れば、さっきユウくんが首に巻いてたやつだ。

「これ――」

 顔を上げて、気がついた。
 ユウくんの首に、もうひとつマフラーが巻かれているのを。

 それは――私が編んだマフラーだった。

「ったく。マフラー編んでるなら早めに言ってくれよな。そうすりゃ新しいの買わずに済んだのに」

「これ――先輩の――?」

「違うっつーの。俺が買ったの、今日。寒かったから!」

「え。え? ええ?」

「あと、ほれ、コレ」

「ほええ?」

「クリスマスプレゼント、だよ、音羽のだよちゃんと」

「えええええっ!?」

「ったく、ほら、もう帰ろうぜ?」

 そう言ってぶっきらぼうに差し出されたユウくんの右手。
 それはいつものユウくんの手。

 ちょっと照れたような顔も、ちょっと怒ったような声も、いつものユウくん。

「うん!」

 私はユウくんの手を握った。

 あったかい。

 いつものユウくんの手。

 ちょっと意地悪だけど、ホントはやさしいユウくんの――。

「音羽」

「えへへ」

「音羽!」

「ふわっ!?」

「聞いてるのかよ?」

「……聞いてなかったよ……」

「じゃあもう言わない」

「ふえええ!? お願い、らすとちゃんす、わんもあ!」

「……はぁ」

「ふうう……」

「メリークリスマス」

「えっ」

「だあかあら!  ――メリークリスマス、音羽」

「あっ、うん♪  メリークリスマス、ユウくん♪」

「……うお、寒いと思ったら雪まで降ってきたじゃないか」

「わあ、ホワイトクリスマスだあ♪」

「はあ、お前は泣いたり笑ったり、忙しいな」

「えへへ、あ、そうだ、商店街行こうよ! イルミネーション、きれいだよ!」

「OKOK。商店街行ってケーキでも食うか」

「わあい、やったぁ♪」

 私はつないだ手をぎゅっと握り締めた。

 間に合った。
 ユウくんと一緒に、これからもいられる。
 ユウくんの隣に、これからもいられる。

 そう思うと自然とほっぺたが緩むぅ。

 えへへ。

 ユウくんの隣、この場所だけはぜったいに誰にも渡さないんだから!






「ところでさ、ユウくん」

「ん?」

「さっき、一回しか言わないからな、聞こえなかったとかなしだからな、っての、あれ、あのあとなんて言ってたの?」

「言わない」

「えええっ」

「絶対に言ってやんない」

「そんなぁ……」

「気が向いたら――そのうち言ってやるよ」




前回の続きの幻の静香ルートと見せかけて、音羽アナザーエンドでした。
あっぷ直前いちじかんまえにかきはじめてぎりぎり終わらせますた。
いろいろ大雑把でしたがううむ。
お付き合い有難うございます。このままにげます。

次回は来年ですね
メリークリスマス、あんどハッピーニューイヤー。
それではよいお年をっ。

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