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センチメンタリズム、あるいは春の陽気に誘われて。

お久しぶりでございます。

今回の日記担当k弥生でございます。

お花見もしないうちに、といいますか、そんな季節を認識するまもなく桜が散ってしまいました。

そんなわけで、
今日はそんな感じのお話をば、一本。









「――あっという間に桜も散ってしまったね」

風に踊る黒髪を押さえながら、御崎センパイはひとりごちた。
御崎センパイ――俺の先輩であり、そして彼女でもある。
制服から伸びる手足はスラッと長く、陸上をやっているにもかかわらず、筋肉質というよりはモデルのようだった。、
うん。欲目じゃないぞ。誰がどう見たって美人でスタイルの良い年上のおねーさんだ。
立ち振る舞いや口調はどこか芝居がかっているのが珠にキズだけど。

俺――成瀬裕也もセンパイの視線を追う。

見上げる桜の木に花びらはほとんどない。代わりに、真新しい緑の葉が茂っていた。

「この間お正月だと思ったら、いつの間にか4月だね」

視線を桜の木からゆっくりと降ろすと、センパイは伏し目がちに遠くを眺めている。

暖房器具のスイッチを押す回数も減り、そろそろ埃をかぶり始める頃。
気が付けば春。

「そう、春だ。
この調子でいくと、夏も一瞬のうちに過ぎていくのかな?」

ふふ、といたずらっぽく笑う。

「全てがあっという間さ。刹那のうちに人間は一生を終えて、灰になっていく」

口調に対して、センパイの瞳は真剣で。
まっすぐに俺を見据えていた。

「キミとボクの逢瀬も、そんな星の瞬きのようなもの、なのかな?」

答えを探して、息を呑む。

想いを発しようとして、息を吐く。

何も、出てこなかった。

そんな俺の反応を見てセンパイは、

「ははは、悪い悪い。少し意地悪をしてしまったかな」

「突然、そんなことを尋ねられても、うまいこと言えないですよ」

「別に座布団は持って来なくていいさ」

「どうして急にそんなことを言い出すんですか?」

「そうだね――春ってやつが引き起こす、センチメンタリズムってやつかい?」

「春なのに、ですか?」

「春だから、不安になるんだ。なぜだかね。
こうやってキミと過ごす時間も、振り返れば六徳のうちに那由多の彼方へと遠く過ぎ去っていってしまうのでは、とね」

「・・・難しい話ですね」

「そんなことはないさ。極めてシンプルさ。楽しい時間はあっという間ってことさ」

難しい単語たちから一転、シンプルな返答だ。

この、芝居がかった口調にも慣れたけど、いまだに何を言っているのかわかりかねる時があったりもする。

けれど、

「それだったら、いっぱい楽しい時間を作ればいいじゃないですか」

「ほう?」

「振り返って、振り返った時間が全部楽しければ、寂しくもならないと思います」

「なるほど、ね」

呟いて、センパイはくるりとステップを踏む。

そして。

トントン、と2回、つま先で地面を蹴った。

その時。
風が吹いた。

足元から吹き上げる、竜巻のような渦を巻いた風。
それに乗って――、

ざあっ、とセンパイの足元に落ちていた桜の花びらが舞い上がった。

周囲の花びらも、一斉に舞い上がった。

花びらの渦の向こうにセンパイの姿が見えなくなった。

まるでセンパイが桜とともに春から居なくなってしまう、そんなような錯覚が俺の胸を締め付ける。

だから。
思わず。

「センパイ!!」

俺は叫び、手を伸ばす。
そこにいるはずのセンパイの姿を捕えようと、花びらの渦へと飛び込んだ。

果たして飛び込んだ先に――、
センパイは当たり前のように、当たり前に居た。
そりゃそうだよな。
内心思いつつ。

勢い余って、センパイに突進するカタチになってしまう。

「おっと、これは熱烈だね?」

驚くでもないセンパイに、俺はふわりと優しく抱き留められる。
ギュッと。
センパイの首元に、鼻を押し当てる体勢になってしまった。
鼻腔をくすぐる、甘い匂い。
センパイの匂い。

その匂いに、思考が甘美な停滞に溺れていく。

「バカだなぁ。キミは本当にバカだなぁ。ボクがキミを置いて何処かになんて、往ってしまう訳がないじゃあないか」

「そうは言っても・・・」

「キミも、春のセンチメンタリズムにやられてしまったクチ、かな」

抱きしめられているからセンパイの顔は見えない。
けど、
声の感じからして、笑っているに違いない。

踊っている。
耳元で囁く、センパイの声が軽快に踊っていた。

これは、嬉しい時の声だ。

「ボクは何処へも往かないさ。往くならば、キミと共に、さ」

「俺も、センパイを置いてなんていきません」

「ふふ、嬉しい限りだね。普段のキミからは到底想像もつかないくらいに、熱烈な愛の告白だ。これは珍しいこともあるもんだ」

「茶化さないで下さいよ」

「茶化してないさ。余りの嬉しさに、絶賛言葉を失っている最中さ」

「言葉を失った割にはよくしゃべりますね」

「茶化してくれよ」

「茶化してるじゃないですか」

「確かに。ふふ、ボクも一体全体何を言っているのかな」

「珍しいこともあるもんですね」

「それが春の――」

「センチメンタリズム、ですか?」

「いいや。これは、そう、春の陽気に誘われて、ってやつさ」

「なるほど」

「わかったかい?」

「わかりません」

「ボクもさ」

「そういうもんですか」

「そういうもんさ」

「あはは」

「ふふふ」

どちらからともなく、密着させていた躰を離す。

気が付けばつむじ風は収まり、
巻き上げられた花びらが、今度は花吹雪となって再び地面へと舞い落ち始めていた。

ゆっくりと、ふたりを包む花びらのカーテンは、足元へとさらさらと降り積もっていった。

お互いに、顔を見合わせる。

お互いに、笑みがこぼれた。




「ところで」

センパイが再び悪戯っぽい笑みに口元をゆがませた。

「ボクは何時になったらキミのセンパイではなく、彼女になれるのかな?」

「え?」

おかしなことを言いだした。
俺とセンパイは確かに付き合っていて、いわゆる彼氏彼女の関係なのだが――、

と、そこでセンパイはこれまた珍しく、大きく息を吸い込んで――、


「いい加減、ボクのことを『センパイ』ではなく、名前で呼んでくれてもいいだろうに、ってことさっ」


そう言ってそっぽを向いてしまった。

黒髪に隠れたセンパイの頬が、ほんのりと赤く染まっているようにも見える。

唐突な進言と、見たこともないセンパイの反応。
俺はようやく理解した。


・・・なるほどこれが『春の陽気に誘われて』ってことなのか、と。




以上です。
でわでわ。また。

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